夏の連続サイコミコラム小説
「かーくん、白黒つけよう!」
夏のサイコミ連続コラム小説
『黒影のジャンク』協賛企画
「かーくん、白黒つけよう!」
- ※このコラムは(実在の人物、団体とは多少関係ありますが、)フィクションです。
この物語を、物事をはっきりさせたいすべての男たちに捧げる……!
選手紹介
その他の人物紹介
組織図
- ◆◆◆前回までの『かーくん』◆◆◆
孤独な男・かーくんに仲間が出来た。
《金的と金欲の化身》鍵谷。
《浦安の内弁慶》あべしん。
《破壊と再生の申し子》大島。
そして、《孤高のマッチングアプリスト》麻生。
しかし、容易く手に入ったものは容易く失われるのが世の常。
かーくんの増長は仲間と石橋の反感を買い、葛西との敵対を決定的なものとした。
再び孤独になったかーくんに届いたのは『果たし状』だった。
今ここに、男と男のプライドを賭けた戦いが幕を開ける!
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俺の名前は伊藤和輝。通称はかーくん。もちろん、俺がつけたわけじゃない。
サイコミコラムの企画で無理矢理つけられたあだ名だ。
俺、来月で37歳だぜ? 自称してたら寒すぎるだろ(笑)。
今は、サイコミのサブマネージャーをやっている。
でも、最初は事業部長だったんだ。
現在の編集長である葛西も、マネージャーの長谷川も、俺が採用したんだぜ?
サイコミを作ったのは俺なんだよ。これは本当さ。
――信じてもらえないかもしれないけど、本当なんだよ……。- ・
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夜のオフィスで一人仕事をしていると、ふいにどうしようもない寂しさが襲ってくる。
集中しやすい環境だからこそ、自分のことを考えてしまうんだろうな……。
採用した部下に出世レースで抜かされ、仕事を奪われ、
プライベートを充実させることに逃げるが、飲み会には誘われず、
精神的などん底の中で石橋というコンサルタントと出会い、店長という目標を得て、
様々な『試練』を越えた先に、『仲間』を得て……。
――すべてを失った。
俺の眼前にあるのは、果たし状である。
――かーくん殿
貴殿と私とで、大決闘会(メンズーア)を執り行う
長い梅雨が明け、灼熱の太陽が東京を照らす頃
道場にて待つ――
『大決闘会(メンズーア)』。
それは、『黒影のジャンク』の中に出てくる、魔法使いたちが自らの信念をかけて戦う一大イベント……。
確かに、サイコミを作った男である俺が参加するとなれば、それはサイコミにとっての『大決闘会』と言っても過言ではないだろう。
送り主はわかっている。葛西である。
気象庁によれば梅雨明けは一週間後。
ご丁寧に道場の地図も付属している。
しかし、問題はその内容である。
決闘ということは、何かで決着をつけるということだ。
殴りあい? もしかして、刃物とか持ち出す? あるいは西部のガンマンスタイル???
いずれにしても……
伊藤
「葛西さんはともかく、サイコミの大黒柱である俺に大きなケガがあったらどうするつもりなんだよ!?」
思わず声に出た。
大島
「それでしたら大丈夫です」
突然の返答に振り返ると、大島が立っていた。
伊藤
「んもー。びっくりしたなあ……。いるなら言ってよ……」
大島
「いや、こっちもめっちゃ作業してたんで。声かけるタイミングなかったっす。あの、決闘の件ですけど、ケガの心配はほぼないと思いますよ?」
伊藤
「え? 大島さん、内容知ってるの?」
大島
「ええ。石橋さんにめっちゃコーディネート頼まれたんで」
ふむ。今回の決闘、やっぱり石橋も絡んでいるのか。
伊藤
「で、内容は?」
大島
「スポーツチャンバラっすよ」
伊藤
「……スポーツ、チャンバラ?」
大島
「はい。すごいんですよ今、人気が。競技人口もめっちゃ増えてて、気軽にできるんで、大学生とかもめっちゃやってます。武器がウレタン製なんで、当たっても痛くないですし、白黒はっきりさせるならめっちゃいいっすよ」
どうでもいいけどこの人、めっちゃ『めっちゃ』って言うなあ……。
伊藤
「教えてくれてありがとう。でもいいの? 俺に教えちゃって。大島さんは編集者だから葛西派でしょ? 葛西編集長に叱られない?」
大島
「葛西派? ……めっちゃウケますねそれ。いや、叱られるとかないですよ。別に口止めとかもないですし」
伊藤
「でも、この間も葛西さんに気を使ってたじゃん」
俺の仲間だと思ってたのに……。
大島
「あー。なんかめっちゃ空気重かったっすね。よくわかんないっすけど、俺は仕事できればそれでいいっす。そんじゃ俺、帰りますんで」
言い残すと大島は帰っていった。
なんか、さっぱりしてるなあ。さとり世代ってやつかなあ。
仲良くしたいとか、相手のことをちゃんとわかりたいとか、この人とだけはうまくやれないとか、そういうこと言ってる俺が古いのかなあ。
あんな風に生きられたら、もうちょっと楽なのかなあ。
悶々と悩んでしまう。このままではいけない。
そう、スポーツチャンバラだよ。準備しておかないとあっさり負けるぞ……。
ネットで調べたところ、『長刀』『小太刀』など様々な武器を使って戦うまさに『チャンバラ』らしい。
剣道とはルールも違うし、戦法や常識が書き換わり続けている新しいスポーツだ。
特に俺の目を引いたのは『槍』という武器だ。
伊藤
「槍なんて使ったことないよ」
呟いて、閃いた。
もしかして、『槍』をうまく使いこなせれば、葛西に圧勝できるのではないだろうか?
槍と言えば……俺の中に一人の男が思い起こされた。
そう。『杖術の達人』にして漫画事業部マネージャー・長谷川である……!
――翌日
長谷川
「杖術の基本は間合いの取り方にあります。このように、出来るだけ相手から距離を置きつつ……」
長谷川
「敵の武器を弾いたら、一気に間合いを詰めて……」
長谷川
「打ち据えつつ、足は引いて間合いを保ちます。この時、相手から視線を外さないように気を付けましょう。次に、一対多数での立ち回りですが……」
伊藤
「あ、ごめん。今回は一対一だから。……たぶん」
長谷川
「戦場においては一対多数のほうが多いんですけどね」
戦場ってどこだよ!?
伊藤
「あ、うん。わかるんだけどね。うん」
長谷川
「いずれにしても、一日で完成する武道などありません。杖術における技はすべてが『必殺』。日々の鍛練の結果、己の放つすべてがその域に達するのです」
伊藤
「う、うん。そうだよね……」
……ダメだ。動きも思考も玄人過ぎて全然マネできない……。
俺は席に戻り、頭をかきむしった。
っていうか、杖術って、杖じゃん? 槍じゃないじゃん……。
このままでは何の勝機も見いだせないまま当日を迎えてしまう!
そんな俺に、再び降りた天啓!
そうだよ! 剣道マンガ『剣に焦ぐ』の浅岡先生に習えばいいんだ!
――翌日。
浅岡
「剣はこう構えて、相手を正眼に見ます」
会議室の前を通りがかると、浅岡先生の声がした。
……浅岡先生が、誰かに教えている!?
覗くとそこにいたのは……。
- か、葛西!!!!!?????
浅岡
「葛西さん、もうちょっと前傾になったほうがいいですよ。そうそう。そんな感じです」
さ、先を越されていた……だと!?
しまった。俺の考えることは葛西も考える。
しかも、編集長である葛西のほうが各漫画の編集者、ひいては作家に話を通しやすい……。
これは、盲点だ……。
浅岡
「剣道は、相手の竹刀を払って懐に飛び込むのが基本です。やみくもに振り回したり打ち合ったりするより、一瞬の隙を狙う感じになります。……例えばこんな感じで……
めえええええええん!」
葛西
「うわわわわわわ!」
あの葛西が怯んでいる。
さすがは浅岡先生……本格派。
このような剣道に対する知識と情熱が、あのマンガを支えているのだな。
※詳しくはこちらのコラムを参照
鍵谷
「あ、伊藤さんが見てる!」
やべ……『剣に焦ぐ』担当の鍵谷にみつかった!
それにしてもこいつ……この間は俺の下について、今度は葛西に協力して。
適当なやつだな……。
葛西
「伊藤さん、何も言わないで覗くのはフェアじゃないですよ。ちゃんと声をかけてくれないと」
伊藤
「の、覗くつもりはなかったんだよ……」
鍵谷
「せっかくですし、伊藤さんもやります?」
伊藤
「お、俺はいいよ……秘策もあるし……」
えっ……俺、何言ってるんだよ!? 教えてもらえばいいじゃんか!?
くそ……この期におよんでも余計なプライドが邪魔をする……。
俺自身、俺のことが嫌になるよ……。
鍵谷
「マジっすか! さすがは伊藤さんですね。当日を楽しみにしてますね!」
鍵谷は笑顔で言うと、一瞬だまって俺の顔を見つめた。
それから、妙に真剣な口調で語り締めた。
鍵谷
「俺は、面白い作品が生まれるならそれでいいと思ってるんですよ」
伊藤
「え? なんの話?」
鍵谷
「だけど、一緒に働く人たちとは仲良くやっていきたいし、変な対立とかない方がいいと思ってるし、こじれてるのって嫌なんですよね」
伊藤
「……」
鍵谷
「だから、二人には思いっきり殴りあって、思ってること全部言って、すっきりしてほしいんですよ。その意味でも、楽しみにしてます!」
鍵谷は笑顔のまま言い放って、会議室の扉を閉めた。
……そんなん、誰だってそうだろ。
でも、できないから苦しいんじゃないのか?
マンガみたいにいかないのが人生なんだよ。
殴りあって白黒つけて何もかもを解決なんてこと出来ないくらい、
俺は、俺たちは、大人になっちまったんだよ。
――試合当日
道場で待っていたのは、手練れた感じの屈強な男女4名だった……。
伊藤
「えーっと、この方々は、一体……?」
大島
「あ。日本スポーツチャンバラ協会から派遣していただいた、スポーツチャンバラ会のトップアスリートの皆様です。大決闘会の審判を務めていただきます」
屈強な男女
「「「「よろしくおねがいしまーす」」」」
葛西
「どうも。編集長の葛西です。今回は私たちの決闘のためにお時間いただきましてありがとうございます」
葛西が早速名刺を取り出し、一人ずつに配っていく。
こいつ、初対面の時と、外面はいいんだよな……だから俺も、ついつい心を許しちまったんだよ……。
審判
「今日はスポーツチャンバラによる決闘ということで、こちらで『小太刀』『槍』『盾』『短刀』『長剣』を用意させていただきました。基本的には同じ装備で戦っていただきます。『二刀』『盾と長剣』『盾と小太刀』などの組み合わせもあるので、今日は8種類の試合を行うことが出来ます。なお、剣道と違って体のどこにあたっても一本となります」
ふむ……。
詳しいルールは、スポーツチャンバラ公式サイトに詳しいのでそちらを参照していただきたい。
(外部サイトに飛びます)- 公式サイトはこちら
審判
「今回は8本の試合を続けて行っていただきまして、勝敗を決する形といたしましょう。よろしいですね?」
葛西は早くも面を装備。二刀を構えて俺を睨んでいる。
葛西
「伊藤さん。まあ、俺たちも大人ですから。ガタガタ言わずにはっきり白黒つけましょうや」
対する俺も面を装備。なんとなく盾を装備してみる。
伊藤
「ここまでお膳立てされちゃったら、やるしかないでしょ!」
審判
「あ。今回は『異種』戦は行わないので、まずは二刀からお願いします」
葛西・伊藤
「「あ、はい……」」
二刀は長剣と小太刀の両方を使う競技。
如何に相手の斬撃を防ぎ、隙をついて打ち込むかが鍵となる。
間合いの取り方もかなり難しい。
……しかし、条件は葛西も同じはず。
だからこそ、この種目には勝機がある。
審判
「はじめ!」
その声がした瞬間、俺は飛んだ。
しかし、初撃を葛西に避けられると、着地したところを追われ、面を喰らってしまった。
審判
「一本!」
大切な初戦を落としてしまった……。
葛西
「大技じゃ、俺を倒すことは出来ませんよ」
伊藤
「くそ……完全に読まれてた」
葛西はマラソンのしすぎで足底腱膜炎に罹患している。
こちらが動いて翻弄すれば足が止まって滅多打ちにできると思っていたのだが……。
伊藤
「足痛めてるんじゃなかったの? かなり動けるじゃん」
葛西
「そりゃあ、この日のためにしっかり準備してきましたからね」
そう。果たし状を送ってきたのは葛西なのだ。自分に有利な種目を選んだに決まっている。
伊藤
「ズルすぎるだろ。こんなの不意打ちと一緒だよ」
大島
「あ、それですけど。スポーツチャンバラにしたのは俺と石橋さんですよ。伊藤さんにも葛西さんにも、ほぼ同タイミングで伝えてます」
伊藤
「え? 石橋さんが?」
大島
「はい。二人の間にはわだかまりがあるみたいだから、思いっきり体を動かして、気持ちをぶつけて解消してこいってことらしいですよ。あれ? 鍵谷さんから聞いてませんか?」
そうか……全部、石橋のコンサルか……。
葛西
「まあ、俺はどっちでもいいんですけどね。伊藤さんをぶん殴れるなら」
伊藤
「えっ? なんでそんなに殺る気なの?」
葛西
「自分の胸に聞いてみましょうよ。……見ちゃったんですよ。前回のコラムの、加工前の画像」
伊藤
「え? 加工前の画像? あ、ああああああ!?」
俺は思い出していた。
第4回のコラム。
『TSUYOSHI』協賛企画として行われたファウルカップ破壊記事。
そこでウンチョウくんの顔の代わりにはめられていたのは……。
葛西の写真だったのである!
……編集長というのはどれだけ人格者であっても人に恨まれるのが仕事。
もちろん、葛西も編集部員から常に慕われているわけではない。
ここに告白する。
俺は、葛西という人間を全員の共通の敵とすることで、麻生や鍵谷、あべしん、大島を束ねていたのだ!!!
葛西
「思い出して、いただけましたか? 自らの罪を……」
伊藤
「……」
沈黙する俺をよそに、審判が第二試合の始まりを告げる。
葛西
「そりゃあねえ、共有フォルダに置いてあったら見ますよ! なんで隠しておいてくれなかったんですか!」
伊藤
「いや……加工前の素材がないと加工するときに不便だなと思って……」
葛西
「せめて、記事が終わった後に消してくれればよかったのに! アレは傷つきますよ! 特に、なんなんですかあの写真! あの部屋、俺だらけじゃないですか!」
伊藤
「ハンマーを振るのに、ターゲットがあるとちょうどよかったんだよ!」
葛西
「終わったら破れた俺の写真を持ってピースって、どんないじめですか!」
伊藤
「アレはネタだよ!」
葛西
「ネタであんな笑顔になりますか!」
伊藤
「それだけあのREEAST ROOM(リーストルーム)ってサービスがよかったんだよ! ストレス解消できちゃったんだよ!」
葛西
「そんなん俺だって行きたかったよ!」
伊藤
「それはごめん!」
俺たちは会話しながらも、次々とウレタン製の凶器を繰り出していく。
当たっても別に痛くない。でも、心が抉られていく。
審判が『一本!』と叫ぶたび、大島をはじめとするスタッフが次の武器を渡してくる。
伊藤
「あのさ、少しは休ませてくれないの?」
大島
「ここを借りてる時間もありますし、休んじゃったらなんか、テンション下がっちゃいませんか?」
……確かに悔しいけど同意だ。
汗だくだし、面の中は臭いし、飛び跳ねてるから足とか体のいろんな部分が痛い。
何度勝負したのか、自分が勝っているのか負けているのかもわからない。
そういうテンションが心地いいのだ。
葛西
「疲れて、もうどうでもよくなってきた。さっさと終わらせましょうよ。こんなの! 伊藤さんが店長になりたいならなってくださいよ! サイコミをよくしたいなら、ちゃんと仕事してくださいよ!」
叫びながら、葛西が槍を突き出す。
しかし、勢いがない。なんとなく前に出した槍が当たってしまう。
一本、取り返す。
伊藤
「俺だって、ちゃんと仕事してるよ。でも、力が足りないんだよ! 葛西さん、黙ってると顔が怖すぎるんだよ!」
葛西
「そんなの、生まれつきだからしょうがないでしょう! そこを話しかけてくるのが同僚じゃないんですか!?」
伊藤
「そっちから話しかけてくれればいいじゃん!」
葛西
「何度話しかけても、伊藤さんは何もしてくれなかったじゃないですか!」
伊藤
「忙しいんだよ!」
葛西
「そんなのお互い様でしょう!」
伊藤
「いっつもいっつも体力自慢ばかりして、コンプレックス刺激しないでよ!」
葛西
「伊藤さんだって何もないところでバク転したりするじゃないですか! しかもそれでケガして! 買ったばかりのセ●ウェイですっ転んで床を破壊したり、包丁落として足の腱を切ったり、なんでそんなにケガが多いんですか!」
伊藤
「……それはごめん」
葛西
「再創刊の忙しいときにケガで一週間いないとか、あの時はマジで終わったと思いましたよ! 自分がいなくなったら大変だってこと、少しは自覚してくださいよ!」
伊藤
「……ほんとごめん」
葛西
「お手製の干し肉、製造工程間違ってませんか!? 食べた人、大体おなか壊してるんですけど!」
伊藤
「……たぶんあれ、腐ってた!」
葛西
「わーわー!」
伊藤
「きゃーきゃー!」
・
・
・
ぜーぜー、はーはー。
俺と葛西の息だけが聞こえる。
さすがに息も絶え絶えだ。
クソ……今、何時だ?
時間感覚もない。
俺たちは何をしているんだ?
俺は誰と話しているんだ?
これはなんだったっけ?
なんのためにやってるんだっけ?
葛西
「もう遅いんですよ。こじれちまった関係は修復できませんよ」
伊藤
「……それは違う!」
意識は朦朧としていたが、これだけは否定しなければいけなかった。
修復できないはずがないのだ。
伊藤
「遅いわけがない! いつだって新連載は始まるし! 俺は、見返したいのもあるけど、ちゃんとしたいんだよ! 葛西さんにも、長谷川さんにも、認められたいんだよ!」
これが本音だ。
叫んでから気づいた。
体を動かし、殴りあって、ハイになって、ようやく自分の本当の気持ちを言葉にできた。
マンガみたいな話だ。
だけど、マンガみたいな話をするには、俺も葛西もおっさんになってしまっていた。
葛西
「……大島くん、戦績は?」
そうだ。これは勝負だった。
俺たちは白黒つけるために、忙しい仕事の合間を縫って道場に来てるんだ。
少し、頭がはっきりしてきた。
大島
「ここまで、8種目やって4対4のドローです。『小太刀』『盾小太刀』『盾長剣』『長槍』が伊藤さんの勝利。『短刀』『長剣』『長巻』『二刀』が葛西さんの勝利となります。今回の『大決闘会』は、ドローということでよろしいかと……」
葛西・伊藤
「「よろしくない!!!」」
はじめて葛西と気が合った。
伊藤
「引き分けなんかで終わらせてたまるか!」
葛西
「まだ一つ、試合形式が残っているでしょう……そう、『大決闘会(メンズーア)』形式が!」
そうだ。これは『大決闘会』だ。
そのことを葛西は忘れていなかった。
『大決闘会(メンズーア)』ルール。
それは、『黒影のジャンク』に出てくるオリジナルルールである。
勝利条件はたったの三つ……。
- ▲黒影のジャンク 43話より
普段なら戦闘不能というのも難しい話なのだろうが。
8種目全力で戦った俺たちはヘトヘト。すぐに事実上の戦闘不能を迎えるだろう。
今日という日を締めくくるのにふさわしいルールだ。
葛西が立ち上がり、一対のウレタン剣を手にする。
葛西
「戦闘不能にしてやんよ!」
俺もまた、剣を握りしめる。
伊藤
「返り討ちにしてやる!」
瞬間。葛西は風になった。
俺はラッシュを受け
場外に追い詰められ
一気に、枠の外へと押し出されてしまった。
伊藤
「……どこにそんな力、残ってたんだよ……」
葛西
「……明日、富士山に登る予定なのでセーブしてたんですよ。……でも、今のでもう、打ち止めです……」
葛西は、倒れ込んだ俺をリングの中央へ運ぶと。
俺の隣に、ぶっ倒れた。
葛西
「いやーもう、マジで足痛い」
伊藤
「そりゃそうでしょ? 足底腱膜炎大丈夫?」
葛西
「いや、これはきついわ」
伊藤
「富士山どうするの?」
葛西
「テーピングで耐える」
- ▲翌日、富士山はテーピングで耐えて登り切りました。
伊藤
「……やっぱすごいよ。葛西さん。まねできないよ」
葛西
「……俺も、編集長の立場になってようやく、伊藤さんの重圧がわかりましたよ」
伊藤
「葛西さん……」
葛西
「伊藤さん……」
俺たちは、渾身の力を込めて立ち上がる。
そして、初めて固く握手を交わした。
俺たちは30代後半。
若手から見ればベテランで、ベテランから見れば若手の、中途半端な年代だ。
少年マンガの主人公には絶対になれない。
体だけが大人になってしまった存在だ。
だけど、もしかしたら。
俺たちは、やり直せるのかもしれない。
もうちょっとだけ、頑張ってもいいのかもしれない。
高校で言えば、ようやく三年生になったばかりみたいな。
部長とか執行部になったばかりのような、そんな年代。
しかも、一年で終わらない。定年はあっても卒業はない。
それが仕事なんだ。
俺は、思い出していた。
石橋に『店長になろう』と言われたあの夜を。
まだ一か月半ほどのことなのに、随分と遠くに思える。
それから俺はいろんなことをやってきたけど、果たして、店長に近づけたのだろうか?
それはまだわからないし、これからなんだろうけど。
やれることを頑張って、サイコミを通じて、少しでも多くの人を楽しませたいと。
俺は思った。
――翌日
伊藤
「石橋さん、ありがとうございました。石橋さんのおかげで、葛西さんとの溝も、少し埋まった気がします。っていうか、最初から溝なんかなくて、俺が勝手に腐ってただけで、俺たちは一緒にサイコミを盛り上げていくべき仲間なんだって、遅まきながら気づきました」
石橋
「僕は何もしてませんよ。ただ必死にマンガを作って、誰かが弱ったら一緒に飯を食って。それ以外何もしてないし、できません。伊藤さんと葛西さんと、サイコミのみんなが頑張っただけなんですよ」
葛西
「今の伊藤さんになら、店長をやってもらって大丈夫かもしれません。最初から、伊藤さんなら大丈夫だって、俺はわかってましたよ。でも、まあ……」
伊藤
「でも、なんなの?」
葛西がにやりと笑った。
葛西
「勝ったのは俺なんで。伊藤さんには一つ、ミッションをこなしてもらおうかと思います。むしろ、店長としての初仕事ってことになるかもしれませんね」
石橋
「店長としての初仕事。大いに結構じゃないですか!」
伊藤
「初仕事……?」
俺、すでにイッキ読みのキャッチとか作ったけど?
葛西
「やっぱり店長には数字を作ってもらわないと」
言って、葛西は白い布を取り出した。
葛西
「これを100枚、売ってきてください!」
伊藤
「こ、これは……」
伊藤
「『TSUYOSHI』の着てた『スサンデルタール人Tシャツ』!!!!!」
- ▲『TSUYOSHI 誰も勝てない、アイツには』第2話より
To be continued…
=====緊急決定!!!=====
「かーくん店長に会える! ここでしか買えない『TSUYOSHI 誰も勝てない、アイツには』スサンデルタール人Tシャツ100枚限定・店頭販売決定!」
日時:8月17日(土)10:00~21:00
8月18日(日)10:00~15:00
※かーくん店長は、各日10:00~15:00頃、店頭におります。
なお、休憩等により不在のタイミングもございます。
限定商品のため、売り切れの際にはご容赦ください。
場所:アニメイト秋葉原 本館 地下1階
商品:『TSUYOSHI 誰も勝てない、アイツには』スサンデルタール人Tシャツ
サイズ:フリーサイズ(XL)
限定数:100枚(多数の方のお手に取っていただきたいため、お一人様限定2枚とさせていただきます)
予定価格:3,240円(税込)
お問い合わせ先:cmc_contact@cygames.co.jp
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